
トラ
@Toreads1234
2026年5月14日
PRIZE-プライズー
村山由佳
熱狂というのは、好意的な場面で使われがちだ。ファン、応援、渦。ただ、最近その愛着や思い入れの度合いから「熱』よりも「狂」の方を感じさせる事象も目立つように思う。
本作は、直木賞を切望する作家の天羽カインと緒沢千紘という編集者が二人三脚で直木賞を目指す物語である。この本筋に愛憎をまぶしまくって、煮詰めていく。
聖書の中で最初の殺人者と言われるカイン。やはりこの名前を冠しているだけあって天羽カインの攻撃性はとどまるところを知らない。編集者に怒鳴り散らし、使用人が運転する車では(作中でも触れられるように)某女性議員のように振る舞う。しかしそれは全て「読者のため、作品のため」というお題目で、また売れっ子作家であるという実力によってなんとなく見逃されている。
千紘は天羽のファンでありつつ有能な編集者だ。
その2人がお互いを唯一の理解者だと錯覚していくことで、物語が加速していく。
天羽の視点で語られるとき、彼女のフィルターを通して見える世界とフィルターが外れた(客観的な)世界の差異は本当に恐ろしい。ただ、これは人間のもつ性質で、自分にも当てはまるだろう。
中盤で「もう終わってもいい、十分面白かった」と思ったが、その後も展開しテセウスの船が出現してから特に狂気が暴走して想像していなかった終わりを迎えた。
単純に出版業界ものとして面白かった。そこに、ミステリー、シスターフッド、サイコパスなど色々な要素が無理なく載せられていて、苦しい場面もあるものの、一気に読んでしまった。
軽井沢と東京の二つの土地。
(あまり男女論みたいなものは得意ではないが)キーマンになる女性たち。
前時代的な「ヒステリックな、仕事のできる女性」
「ブランドの名前や格は畢竟、所有する者の自己満足のためにある。」(p.36)

