にっかり青江 "幸村を討て" 2026年5月15日

幸村を討て
幸村を討て
今村翔吾
史実と創作を巧みに融合させた至高のミステリ  背表紙の「傑作歴史ミステリー」という文字を見て、疑問が浮かんだ。歴史小説でありながらミステリーとはどういうことか。  まして最期まで含めて広く知れ渡っている真田幸村。結末の分かっている物語が、果たしてミステリーになり得るのか――。そんな興味に惹かれ、ページを繰り始めた。  本作は、手に汗握る剣戟や派手な合戦描写は意外なほど少ない。そうした要素を期待して読むと、少しばかり拍子抜けするかもしれない。本作がフォーカスしているのは、あくまで「諸将の思惑」だ。言うなれば、英雄の活躍劇というよりは、緻密な情報戦や政治劇を見ているような趣がある。  舞台となるのは、大坂の陣。各将を主人公に据えたパートと、真田家の回想が交互に綴られ、物語は進んでいく。それぞれの武将が抱える事情と、真田家の秘めたる意図が交錯し、誰もが己の信条を胸に「幸村を討て」と口にする。 長く続いた乱世の終焉を確信し、決断を下していく人々。なぜその選択に至ったのか、なぜそうせざるを得なかったのかという「謎」が積み重なり、それらが次第に収束して、最後に一つの真実として氷解する。  まさに、至高のミステリーではないか。  通常のミステリーでの解決編にあたる場面では、一手の誤りが即、死へと直結する戦国時代ならではの緊張感が漂う。もちろん、作家の想像力によって描かれたフィクションの部分もあるものの、その説得力は凄まじく、驚くほど腑に落ちた。史実と創作を巧みに融合させ、完璧なミステリーとして結実させている。まさに「傑作」の名に恥じない一冊。  また、本作は切ない家族の物語でもある。 真田家はもちろんのこと、個人的には森吉政にまつわる家族のエピソードに激しく心を揺さぶられた。こうした絆の描き方には、めっぽう弱い。  唯一の難点は、状況や時代によって人物の呼称が頻繁に変わるため、把握に苦労することだ。幸村も「左衛門佐」や「源次郎」と呼ばれ、現代で最も馴染みのある諱(いみな)で呼ばれることは少ない。慣れるまでは混乱するかもしれないが、随所に丁寧な補足があるため、自信がなければメモを取りつつ読み進めるのが、この深い物語を快適に味わうコツかもしれない。  この煩雑さもまた当時のリアリティを感じさせる要素の一つ。魅力となり得るのかもしれない。
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