
瑠璃
@hinageshi
2026年5月15日
花闇
皆川博子
読み終わった
感想として、切ないという言葉を使うのはなんだかしっくりこないのです。誰よりも才気に溢れ、誰よりも高慢な女形であった田之助が、不治の病という自分の手には負えない魔物によって、舞台から退かざるを得なくなる。その様子が、弟子の市川三すじの目線から語られていくのだけれど、三すじと田之助の絡みというのがほとんど描かれないのですよね。並の小説なら、主人公である三すじに特別な役目を負わせ田之助が最も信頼を置いていた弟子としての演出に重きを置いてしまうところだと思うけれど、本作はそうではない。田之助が三すじに信頼を置いていたのは間違いないけれど、だからといって二人にあからさまに特別な関係を持たせないのです。そのことは、本作が三すじが田之助の才能に心酔しながらも時折見せた憎悪のような感情を描き切ったことにも通じる思います。皆川氏のこうした姿勢が、作品に独特の重みを持たせ、本作を単なるエンタメ小説とは一線を画すものにしているのです。情報量の多い現代だけれど、その場でしか味わえないほとばしる才気に、田之助が芝居に対して持っていた途方もない熱量のようなものに、私も触れてみたいと強く思いました。