
ぴよみ
@erim_0521
2026年5月15日

対岸の彼女 (文春文庫)
角田光代
読み終わった
★★★★★
「人と出会うことは、自分の中にその人にしか埋められない鋳型を穿つようなことだ」
本文でも思わず付箋を貼ってしまう箇所散りばめられていた本作だったが、なかでも特に印象に残ったのが、森絵都さんの解説にあったこの一文である。
こんなにもわかりやすく、それでいて深い言葉があるのかと心を掴まれた。
SNSが当たり前になった今、実際に会うことがなくても人と細く繋がり続けることができる。
だからこそ、「会う」という行為が持つ特別さや、その人の存在が自分に残していく感覚を、少し忘れてしまっているのかもしれない。
自分自身、最近はあまり人に会いに行っていない。
県外に引っ越してからは特にそうで、近くに友人も少ない。離れていてもSNSを開けば簡単に近況を知ることができるからこそ、会うことの重要性を見失いかけていた気がする。
私はどちらかといえば人間関係にドライな部分がある。
過去の関係を定期的に整理することもあるし、それに対して強い感情が湧くことも少ない。
「たぶんもう会わないし、それでいいか」――そんなふうに思うこともある。
それでも、地元に帰ったときには「会いたい」と声をかけたくなる人がいる。
きっとその人たちは、自分の中に深い鋳型を穿っていて、もうその人にしか埋められない存在になっているのだと思う。
声をかければ会ってくれる。
そんなことを、どこか当たり前のように思っていた。
けれど、今こうして「会いたいときに会える人」がいること自体、かけがえのない財産なのだと気づかされた。
「いつでも会える」を当たり前と思わず、年齢を重ねるほど、会いたいと思った人には会いに行くこと。
そして、新しい出会いを自分から見つけに行くこと。
そんな大切なことを静かに思い出させてくれる小説だった。