
いちのべ
@ichinobe3
2026年5月17日
アニータの夫
坂本泰紀
読み終わった
千田が刑務所ののど自慢大会で「酒と泪と男と女」を歌った、という話をXで見かけて「エピソードが強すぎる!」と気になっていた本。面白くて一気読みだった。
事件自体は当時めちゃくちゃ話題になったから知っていたものの、そこまで興味を持ってなかったから、「アニータが原因で横領した」という印象を持っていた。
千田がアニータに出会う前から、別のスナックのママに資金援助して借金して横領に手を染めていたことを、この本ではじめて知った。
前半、千田の目線で語られる経緯はどこか「都合の悪いところを端折ってそう感」があるし、千田がアニータに宛てた手紙の自己陶酔してる感というか妙なエモーショナルさが不気味。
そして後半に紹介されるアニータの目線での経緯も、全面的に信じることははかなか難しく、結局それぞれにとっての「真実」がそうなんだね〜ということしかわからない。現実って、人間ってそういうものだよな。
> また、千田が検察官に対し、「金や物を出さずに、どうすれば愛や友情を手に入れられるのか、私には分かりません」と供述していた(後略)(p98)
> 彼女は、彼女の世界で、楽しくやっていたのかもしれない。それなのに、俺は、弱いものを救いたいと思った。アニータを救うことでなんかヒーローになりたいなって思いもあったのかもしれない。正義というより自己満足に近いかもしれないよね。(p122-123)
> 津軽に「さんふり」という言葉がある。「えふり=いいカッコすること」、「あるふり=金を持っているふりをすること」、「おべだふり=博識ぶること」といった三つの気質のことで、要は、何ごとにつけて見えっ張りでかっこつけ、ということだ。(p180)
千田本人も語るとおり、「人間関係とか、人間が生きていく中で一番大切な部分が足りなかった(p122)」というのが根本的なところにあるのかな……と読んでいて感じた。
その感覚を補強する『碧い瞳のエリス』のエピソード、そして表紙のアニータの瞳が碧い意味に読み終えてから気づくことができる装丁も素敵だ。
チリ本国の人々のアニータに対する評価や、彼女が今取り組んでいる活動・新たに始めた活動も初めて知るもので、驚き、興味深かった。
肯定できない面は勿論あるが、養子を含む9人の子どもの母として、様々な手段で日銭を稼ごうとする「母」としてのアニータの努力はすごいなと思ってしまう。
この言葉が心に刺さった。
> 「アニータをどうとらえるかで、自分の価値観があぶり出される。チリで、自分自身のポリコレ(ポリティカル・コレクトネス、政治的正しさ)が試される存在。それがアニータなんです」(p213)
