
読書猫
@bookcat
2026年5月16日

IDOL
町屋良平
読み終わった
(本文抜粋)
"「夢」は未来では軽犯罪にあたるものになった。以来AIシステムの助力もあってとくに若い世代で殺人や病死や事故や自殺が明確に減り、健康に長生きできる社会が実現された。「夢」は健康に悪い。時代が進むにつれ睡眠時間の減少がますます社会問題化し、加速するプライバシーの侵害や、あらゆる娯楽と労働の低年齢化が進み、それとなく一般層から「夢悪説」が流行しはじめ、それが採用されてしまった形だ。"
"「ふむ。「小説」か……。とくに「現代小説」と呼ばれるヤツはAIによって一時的爆発的に技術革新が起きた。けどAI身体群によって創作された作品は生身体には容易にその素晴らしさを読み解けず、次第に歴史的接続と、その価値を見失った「作家」と「批評家」のメンタルヘルスが著しく悪化しているという研究報告が出され社会問題化してたって論文は読んだことあるな」
「その通り。一五五が言うように、その時期以降、しぜんにAIは生身体に配慮した「現代小説」を書き始めた。つまり、一挙に「新しい」認識を言語化するのではなく、小出しに小出しにまだギリギリ「言葉にされていないことを言葉」にするように気をつけたんだろうね。すると。「作家」のメンタルヘルスは一挙に回復し、それどころかその技術にも爆発的革新が起きた。批評家は根絶されたけど、その一部は優れた小説家兼AI技術者になった」"
"この時代の人間は、「夢」や「才能」を伴わない努力に敬意を払うけれど、それはそういう「フィクション」が好きなだけで、そういう「物語」が好きなだけで、現実には凡人が「天才」に敗れて体か心を壊して辞めていくような「ドラマ」が好きなだけだって、大人だったらみんな知っている。"
"そもそも、キルトも分かってるやろうが、基本的に表現者のほうが自主規制を進めていった結果、そもそもどんな表現ジャンルでもまず「面白い」ことが暴力やねんから、「面白い」をみんながなんとなしに自主規制していった結果が僕らの時代の表現の末路やん。そもそも「表現」は人間に不可欠やとしても、そこに「面白い」は絶対的には必須やない。「面白」くないもののほうに救われるひと人も大勢おるんやから、これは人それぞれや。"
"かつてここに誰かが居たかもしれなくていまはきっと居ない。これはこの時代の人間が幽霊と呼ぶ感覚にちかいものだった。"