
紫香楽
@sgrk
2026年5月19日
世界99 下
村田沙耶香
読み終わった
下巻もひたすら人間、コミュニティの嫌いなところの煮凝りだった。
空子のような自分の意志のない人間でも「女の子」を加害から守りはするというのは結構意外だった。当時自分がいて欲しいと思ったような大人として振る舞うことで自身も癒される、というのはまあ確かに。
とにかく現代社会の問題をこれだけたくさん抽出して組み込んでいる力がすごいなと思った。
下巻や結末からすると人々は醜い感情を忌避し無知でいることを望む世界④を正しいものとして選んだわけだけど、その社会を選んでいたら政治は腐敗するがままでもっとヤバい貧困社会になってそう(ブラック企業が多く、大学を出た空子が自活するのもキツかったという描写や、女二人で暮らしててもキツいという描写があるので実際多くの人が生活するのも厳しい社会状況ではあるっぽい)
そういう面で世界③の人たちが政治の話をあまりしていないのは違和感なんだけど、まあ政治の問題をどうこうする物語ではないから削ぎ落としたのかなという感じがする。
でも世界の構造を見せることが目的の話なら触れないのもどうなの? という気もしてうーん。いまいちなにが描きたい話なのかわからない。
私個人は世界③に該当する人間だと思うのだが、コミュニティというものが嫌いなので(コミュニティの嫌さは作品内にも描かれている通り)世界③のコミュニティに属してはいない。
確かに世界③の人は怒っている発言が目立つが、別に怒ってない論理的な発言もたくさんあるので白藤さんの「いつも正しさを目指して怒ってる」ばかりがフューチャーされた描かれ方なのはなんだかなあと思った。
全体的に様々な要素から見るに「今まで気にしてなかったけど(あるいは違和感は少しあったけど)、確かにこれっておかしいよね」という気づきをなにがしか読者が得られるように、というのを目的にした作品なのかなと思う。
まあそれらに気づく、出会うきっかけがなかった人にはいい作品になるのかなと思う。
自分的には「あ〜そういうやつね」という、既に知っている人間の嫌な振る舞いや反応の話がひたすらずっと続いたので、読んでいて不快なやりとりやシーンが多く、概ね同意もできず、うーん……
現実の社会問題を社会問題と認識させずに物語として読ませるという意味ではいいのかもだけど、そういう人がじゃあこれを読んで理解するのか?と言うとどうなんだろうと思う。まあでもこの一冊ですべて分かれという話ではなく、きっかけとか、このあと他のものがきっかけになるためのとっかかりとか、そういうものになればいいのかなと思う。
人々は世界④に近いものを選んでいるけど別に世界④を完全にいいものとして描いてるわけでもないと感じて、でもじゃあ読者が「ラストにも繋がる世界④みたいな考え方って危険だしよくないな」と思わせる書き方でも別にないよなあという感じで、うーん。
結構自分が今まで関わってしまったヤバい人たちの中に空子や音のような人いて、その人たちを思い出してしまったのも微妙な感じだった。
結局普通に関わっているうちは空っぽなのかってなかなか判別がつかないから難しいんだよね。
判別方法としては、「この人自分に対して都合のいいこと言ってるな〜」と感じることなのかなと思う。あと「こういうこと他の人にも言ってるのかな」と感じるとき。1000%他の人にも言ってます。
深く関わりすぎてしまった場合は(結局自分のことしか考えてないため対等な関わりはできないので)縁を切る、あるいはめちゃくちゃ薄い付き合いに留めるのがいいと思う。
やっぱ世界③の、というか白藤さんのスタンスを無駄だと腐す感じなとこがかなり嫌いかも。
白藤さんも正しくないところがたくさんあるし、私は人間は正しく生きることがすべてではないと思っており、正しさの前に自分の中で優先順位をつけたほうがいいと思っていたり、サラーや汚染水飲むのはやめたほうがいいと思うし、そんなに白藤さんに共感してはないんだけども。私の考えは「正しさを目指す」ではなく「いい社会を目指(せる人は目指)した方が社会にとっていい」かな。
それでも社会問題扱ってはいるけど結局のところ冷笑系作家なんだな〜と感じてかなり嫌な感じだ。世界③的な振る舞いを腐すのは。
まあ世界③の嫌な面を描かないのも、それはそれで「結局作者が正しいと思っているのは世界③なんだな」という読み味になって他の世界の人が素直に読めない作品になってしまうんだとは思うんだけど。
でもそれを避けるためだけではないくらい腐す設定にしてるよね。
私自身世界③的なコミュニティ性が嫌いで(世界③に限らずコミュニティというものの生み出す問題自体が嫌いなのだが)コミュニティには属していないので、コミュニティ性の描写としてはとても説得力があるんだけども
上巻はかなり整った文章で読んでて引っかかるところもなかったんだけど、下巻はやや読んでいて引っかかる描写があったのが気になった。
それにしても独自設定でこれだけ高解像度に現代社会(に近似したもの)を描き出す力がとてもすごいなと思った。
人間について、もしかして常にこういう作風なんだろうか。
それなら当面読まなくていいかな……
かなり露悪的さだけを強調して描いていると思うので、「リアル!」と言う人が多そうなのも嫌だなあと思う。
悪い面だけがリアルだと思ってる人が喜びそう。
しかもそういう人は「こういう発言や考え方は差別的で良くなかったんだな」とは思わずに「やっぱ人間・社会ってこうだよな〜」で終わりそう。
仮想読者の存在を考えてムカついている。世界③の人すぎる。ムカつかなくて済むようなマシな世界になってくれ。