
lenco
@lenco
2026年5月23日

海をあげる
上間陽子
手離したくない
この本を、わたしはいつも可能な限り鞄に入れて持ち歩いている。じつは二冊持っていて、一冊はいつも家の本棚に置いてある。
いつも持ち歩いている2冊めは、一度ある人にあげたことがある。そこからまた本屋さんで一冊買ったから、今鞄に入っているのは所持数としては2冊めだけど買った数としては3冊めだ。
その人に会って話しているとき、たまたまこの本の話になった。その人が「興味あるから、つぎ本屋に行った時に買ってみる」というので、その時持っていた『海をあげる』をその場であげた。
興味あるから、は本心だったかわからない。社交辞令だったら迷惑だっただろう。わたしは自分の好きなもの、大切だと思っているものを、本に限らず他人に勧めるのが大の苦手だ。理由はかんたんで、わたしがそれをされるのが大大の大の苦手だからだ。
おすすめの本全巻を頼んでもないのに自宅に宅急便でドンと送ってくる、みたいな行為、本当に本当に勘弁してほしい。たとえ一冊の文庫本でもいやだ。よほど相手のセンスを信頼しているなら別だけれど(心が極狭なのはわかっている)。
それなのに、わたしはその時、その人にこの本をあげた。100%自分の勝手で、その人に本を押し付けた。あんなに好きじゃない行為だったのに。
わたしもその人も東京に生まれていて、東京に育って、いまも東京に暮らしている。この本を読んで、最後の章で「あなたにあげる」といわれて、手にした絶望の海。わたしはその人にも、この絶望の海を広げたかったのだと思う。
