
Ryu
@dododokado
2026年5月24日
風を飼う方法
小原晩
買った
読み終わった
「耳にイヤホンをさして、ひさしぶりに聞く曲をかけた。電車にゆられて、流れる景色はいつもと同じで、狭い部屋では恋人が眠っている。窮屈なパンプスを脱いだあとの自由な足がうれしい。起こさないよう、しずかに湯ぶねにお湯をはる。ジャケットを脱ぎ、真珠のネックレスを外し、黒のタイツを脱いで、しばしくつろぐ。小さくて黒くてかたいバッグから「デカまる」と書かれた入浴剤をとりだす。まだたまりきっていない中途半端な湯へ放り込むと、みどり色の塊は、けむりみたいに湯にとける。腰までつかると、腰までぬくい。雑な森の匂いがする。ゆっくりとあたたまってくる。からだの芯まであたたまる、の芯はいったいどこだろう。黙っていれば湯はたまる。よいところで蛇口をひねり、とめる。肩までつかる。生きているから芯から熱い。風呂から上がり、体を拭いて、髪を乾かし、恋人の眠っている布団のなかにもぐりこむ。」48
「もう暗い外に、つめたい風に、頬をぶたれて、昼寝のゆめから覚めたみたいな、さっきまでの全部うそね、というような。しかし、頼みのつなの心ぼそさも、きれいさっぱり残ってないので、よ・ゆ・う・よ・ゆ・う。百子はリズムよく、螺旋階段をかけ降りる。」62
「川太郎が煙草を吸い終わるのを、百子はお手洗いの前でしずかに待つ。それから、とくにすることも見るものも買うものもないイオンモールをぐるぐる歩く。ひとまず、ビームスを見る。ビームスの言うことを聞いておけばいい。そういう前提みたいなものが、いつからかある。馬鹿げたことだと思う。」77-8
「螺旋階段をとろとろ降りる。踊り場の柵に寄りかかり、明けかけた空をながめる。
部屋に帰って、シャワーを浴びる。洗い慣れたボディーソープを手にとり、自分の輪郭をなぞるように洗う。少しずつ戻ってくる。酔いを落とすように、熱いシャワーを浴びる。何かに決着をつけることが百子にはひどく恐ろしい。」98