時間のかかる読書人 "別冊NHK100分de名著 ..." 2026年5月27日

別冊NHK100分de名著 集中講義 夏目漱石
胃病は「過去」という病 近代個人主義と「お腹の具合」 漱石の病には、精神の病と胃の病の二系統があった。精神の病は自分をまるごと呑み込んでしまうような果てしない闇として感じられた。未知のものへの不安も伴う。これに対し、胃病のほうは慢性的で日常的。いつものやつが何度も迫ってくる既視感がある。「ああ、またあれか」「ああ、あのときのせいだ」という感覚。精神病の不安が未来的であるとするなら、胃病は過去からの集積を暗示する。 漱石にとっては、「片付かない」という感覚のほうが安心だったのかもしれません。面倒くさいけれど、少なくとも説明可能で具体的。「胃の病気がこのあたまの病気の救い」とはそういうことだったのではないでしょうか。胃病のおかげで健三は不健康な健康さのなかで、片付かないがらくたのなかで、一服の安定を得た。『道草』はそういう小説として読むこともできるように思います。
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