
和月
@wanotsuki
2026年5月28日
生殖記
朝井リョウ
読み終わった
人間という生物が拡大、発展、成長に向かって走り続ける様を、その理由や意味を、ここまでつぶさに言語化した本に初めて出会った。
何だかすっっっごくライトな口語を用いた学術書を読んだような気分でもある。面白かった。
まずこの視点で物語を動かそうという発想が斬新。しかも元は新聞連載と聞いて尚のことビックリ!新聞連載ってお堅い印象があったけど、昨今は変わってきているのね……。
作中に登場する尚成は、周囲の人間達と思考や言動にかなり距離がある。それは、尚成の性的志向や置かれた環境による人格形成が起因している。周囲以上に物事に対してぐるぐると思考を繰り返す彼が主軸となることで、多くの人が持つ偏った言動を客観視することができる。
他方で、彼単一の視座で物語が進行するとそれはそれで一定の偏りが生まれる気がする。その点、今回の語り手は尚成と同一的な存在でありながら、人を達観して観察できる立ち位置だった。特殊な視点によって、言葉をフラットに物語る工夫が感じられた。
「生産性のない人はいない」という言説がポジティブに発せられ、受け止められる現代。
それは、裏を返せば「生産性を持つことが正解である」という画一的な思想に染められた発言ではないか?
本作の鋭い指摘を受けて、私達に根付いた無意識下の本能の強さが改めて怖くなった。
尚成は様々なことに対して思考を続け「しっくり」させることで、自分を拒絶する世界で息をし続ける選択をしていた。私は世の中の様々なことに対して深く考えすぎずぼんやりと感覚を鈍らせて、生き続ける選択をしているので真逆の人だなぁと感じた。でも、「今ここ」に集中することで翌日にコマを進める過ごし方はとても共感出来たので、感情移入しすぎないけどシンパシーは感じながら読み進められた。
この一冊で人間という種の本能や幸福について理解するのはあまりにも早計なので、本作の参考文献等を読み進めながら、ゆっくりと私の中のしっくりする幸福を見つけていきたい。





