ちゃそす "三体3 死神永生 下" 2026年3月25日

三体3 死神永生 下
三体3 死神永生 下
ワン・チャイ,
光吉さくら,
劉慈欣,
大森望,
泊功
39〜40  面壁計画という荒唐無稽な計画の偉大な功績により、地球文明は三体文明の侵略を抑制することに成功する。  それから、人類にとって平穏な日々がしばらく続いていた。しかし、それは同時に再び人類の傲慢を肥大化させることとなる。  航空宇宙エンジニアである程心は、PDC戦略情報局への所属をきっかけに、地球文明の命運を握る数奇な運命に巻き込まれていく。  三体文明の侵略、という問題を解決することが前作の主目的であり、その目的が達成された後の世界はどうなるんだろう。羅輯はどうなったんだろう。という疑問を抱きながら本書を読み進めると、物語は危機紀元初期、面壁計画の裏で進行していた階梯計画の描写から始まる。  計画の裏で羅輯の影がちらつく中、階梯計画は当初思い描いていた通りには進まないまま、程心の冬眠によって時代が進む。  前作とは違って様々な時代で物語が動くので、冬眠で各紀元を渡り歩く程心は、新時代に対する新鮮な思いを読者と共有する役割を持つ。  最初に程心が目覚めたのは抑止紀元の終盤。そこで、羅輯が再び登場する。執剣者。ダモクレスの剣を支える者。  「敵と相対する時大切なのは、相手の目を睨みつけることだ」  羅輯は約50年もの間、三体文明の目を見つめ続けていた。壁に向かい続ける真の面壁者となった。  本来快楽主義者であるはずの羅輯の、三体2終盤以上に磨きのかかった姿が見られて感激した。  3では快楽主義者の一面が、今度こそ逃れられない終焉を前にした時の落ち着きようとして活かされ、より魅力的で頼り甲斐のあるキャラクターになっているのは嬉しかった。  主人公の程心は時代と運命に翻弄される博愛主義者だ。  そして彼女の愚かさと言い換えられるかもしれないほどの純粋さと博愛精神が、この物語を動かす。  彼女の愚かしさは人類自身の愚かしさでもあり、一難去ってまた一難、といった具合に、何度危機を前にしても一枚岩にはなれない人間らしさは前作からご存命。一度や二度の危機じゃ人は変わらない。変わったのは、章北海の蒔いた、地球から旅立った人類だけのようだ。地球から切り離されると、人は5秒で全体主義に変貌する。個人的に「新技術によって人がどう変化するのか」というのがSFの醍醐味の一つだと思っているので、人の変わるところ、変わらないところそれぞれが描かれているのがよいと思った。  程心と雲天明はまさに天の川を挟んで交流する織姫と彦星のようであった。星と物語をプレゼントするロマンチックさと、その裏側にある冷たい現実。そして最後に彼のプレゼントした小さな宇宙。  ずっとすれ違い続ける二人は織姫と彦星のようだ。最後、AAと雲天明の残したメッセージは時の偉大さと人の儚さを感じさせた。  筆者はおそらく絵が好きなのだろう。前作から絵画の比喩が文章で何度も使われている。とうとう本作では宇宙が巨大な一枚の絵になってしまった。二次元化攻撃のアイデアは、筆者の趣味の影響が大いにあるのだと思う。本作の影響で、今後ゴッホの月夜を見たときに二次元化宇宙を想像してしまいそうだ。  私はあまりSFを読んだことはないのだけれども、次元や光について、比較的新しいの物理学的知見が盛り込まれていている点が新鮮だった。科学が進むほどにSFの枠もどんどんアップデートされていくのかもしれない。  智子の壁は現実にはないわけで、もしかしたら更なるブレイクスルーがこの数十年で起こるのかもしれない。今まさに、AIによるブレイクスルーが起きている。私たちが生きているうちにホーアルシンゲンモスケン産のものを手にする日は来る可能性もあるかもしれない。
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