
にっかり青江
@faizRDM
2026年5月30日
傲慢と善良
辻村深月
読み終わった
自身の在り方を問い直す羅針盤になり得る一冊
婚活をテーマにした恋愛小説。
現在婚活中の人には辛い内容かもしれないが、それでも読んでおく価値はあると思う。自分は幸運にも「100点の妻」が”選んで”くれたおかげで、婚活という泥沼を経験せずに済んだ。それでも心を抉ってくる鋭さは、やはり辻村作品ならではの魅力。今まさに婚活に向き合っている人や、これから考えている人は、心に余裕がある時に読むことを強くおすすめしたい。
婚活で出会い、婚約した架(かける)と真実(まみ)。順調に見えた二人は、ある日突然、真実の失踪によって崩れ去る。架は失踪の理由を探る過程で、真実の過去や自分自身の本質と向き合うことになる。
基本的に架の視点で物語は進むが、彼に対しては最後まで共感しきれない部分が多かった。しかし『凍りのくじら』の時とは違い、今回は同性として「傲慢さ」を認めざるを得ない嫌な部分を突きつけられ、自身の内面を覗き込まれているような居心地の悪さを覚えた。逆に、真実の視点、女性側の心情が言語化される様には、苛立ちを感じると同時に、彼女が「善良」であるがゆえの生きづらさに痛いほど共感してしまう。結果取った行動は肯定できないが、それでも理解はできる。
しかし、女性でも架の女友達、特に美奈子には最後まで嫌悪感を抱かずにはいられなかった。他人の不在を肴に辛辣な言葉を投げ合う光景や、真実に対しての言動、架自身が感じていた嫌悪感は痛いほどよくわかる。娘が将来、ああした人間関係の中に身を置く可能性を想像すると、胸の奥が冷たくなるような焦燥を覚える。
一方で、真実の両親に対しては一概に非難できない複雑な思いがある。もし自分が子供を持つ前なら「ひどい親だ」と切り捨てていただろうが、今となっては彼らの弱さや未熟さも少しだけ理解できてしまう自分がいる。絶対にこういう親にはなるまいと心に誓いつつ、この小説が心に負わせた傷跡が癒えたら、また次の辻村作品に浸ろうと思う。


