パピアニューピピア "完全版 ぼくらの(1)" 2025年3月23日

完全版 ぼくらの(1)
ヴィレバンにずっと飾ってある本・鬱・胸糞という評判(悪名?)しか知らなかったが、物語の全編を通してかなり生きるということとその意味について真摯に向き合っていてよかった。登場人物(もしくは作者)の観ている世界というのは基本的に美しくて、命というのは光なのであるという通念が伝わってくる。 子供たちが突然に自分の死を突きつけられた時に出す答えがちゃんと人数分あったのがよかったと思う。一人一人抱えている事情や思想によって生き死にや自己犠牲に対して見出す答えが違う(見出せない人もいる)し、自分ができる手段と時によって違うというのが、生き死にに対してむしろ誠実でいいなと思った。 むしろそういう部分について、生々しさや汚さや痛さから来るえぐみを求める人には肝心な核の部分をぬかれた上澄だけの物語に感じて物足りないのかもしれないので、この物語を説明するにおいて「鬱」「胸糞」と言ってしまうのはなんかお互いにとってあまり幸福なことではないような気がする。 わたしはとても好きでした。 三回くらい全部読みましたが、また読みたいです。 追記 あと少し思ったのが、物語上において家族間にある無条件の愛情への信頼が強いなと思いました。 母は当然子を愛し、子はきょうだいを愛し、コミュニケーションがうまく行かなくても最終的に「家族は家族を愛する」という倫理観が通底しているように感じます。そこはかなりフィクション味を強く感じるくらい絶対に揺るがない世界の論理なんだろうなと思いました。 これが作者の哲学なのかどうかは他の作品などを読んでいないのでわかりませんが、この作品を読む限りでは作者が「家族や親子の繋がりや愛情は揺るぎないものである」と考えているように感じました。
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