
ななり
@bluebook_mark
2026年6月5日
雀ちょっちょ
村木嵐
読み終わった
為政者による創作や出版への粛清に抵抗し文化そのものに殉ずることは、多くの場合美談として語られがちです。実際その人たちの中にある信念は何物にも代えがたい気高さを湛えたものであると私も思います。では理不尽な力の前に筆を擱くことを選んだ人たちのすべてが、ただ自らの命惜しさのみにすごすごと引き下がってきたのでしょうか。答えは当然、否です。人という生き物は独りで生きているわけではない。だからこそ時に自分自身ではなく友人や愛する人、そして家族を守る為に半身と同義のものを手放す悔しさを選ばなければならない瞬間がある。この小説の主人公である太田南畝を支える人たちは気持ちが良いほどに真っ直ぐで、濁りがなく、そして優しい。江戸に名を馳せるほどの彼が狂歌を辞めてまで守りたいと思った心の動きの説得力としてこれ以上のものはありません。狂歌のささやかなユーモアを混じえながら、人が人を想う気持ちを素直に書いた佳い歴史小説でした。
