いちのべ "血を分けた子ども" 2026年6月5日

いちのべ
いちのべ
@ichinobe3
2026年6月5日
血を分けた子ども
血を分けた子ども
オクテイヴィア・E・バトラー,
藤井光
表題作、「男性妊娠小説」とだけ聞いて飛びついて、ネタバレを踏まずに読めて良かった…… 物語の冒頭、「ぼくはト・ガトイのベルベットのような腹部にもたれかかり(p10)」という文章の時点では人に似た姿を思い浮かべていたが、 > 母が顔を背けると、ト・ガトイの脚が何本か、ぼくをしっかり抱え込んできた。(p10) という描写から、どうやら全く違う見た目の生きものらしいぞ……と、「トリク」やこの世界についてじわじわと把握していく体験がたまらなかった。 そして「ン・トリク」という知らない単語、それがどうやら人間らしいことがわかり、主人公は何故か畜殺を命じられ、「食べて栄養をつけるためとかかしら?」となどと呑気に考えていたら、とんでもなくグロテスクな用途、そして光景を浴びせられる。 自分はこういう、「馴染みのある人間社会とはまったく異なるルールの社会」を観測するのがたまらなく好きなのだ。 そのうえ、この物語は、異種族間のラブストーリー(!)であり、一人の少年の成長譚であり、期待通りの男性妊娠小説でもある……読んでいる間ずっと多幸感に満たされていた。自分では想像だにしなかった「顧客が本当に求めていたもの」をお出しされた感がすごい。 ト・ガトイは無理矢理ギャンに卵を産みつけようとはしない。彼らの間には合意形成があり、愛情もある。しかし行くあてもなく逃げてきたテランと、彼らを「保護区」で生き延びさせてあげているトリクの間には、圧倒的な非対称性がある。そして現実の人間の生殖では、(少なくとも今のところは)「子宮を持つ側」にのみ、圧倒的な肉体的リスクが非対称に課せられている。シンプルに面白いだけでなく、現実の様々な社会構造がオーバーラップする。
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