渡辺洋介 "語るに足る、ささやかな人生" 2026年6月8日

渡辺洋介
渡辺洋介
@yskw0514
2026年6月8日
語るに足る、ささやかな人生
広大なアメリカ大陸、夕暮れ時の空模様を切り取った描写がたまらなく美しい。 「夏の太陽は、9時半になってからようやく西の平原に沈む。その後30分、空はオレンジ色の天蓋となってやがて深い紫色へと透き通っていく。その深さが増せば増すほど、色は闇の中へ吸い込まれていく」P27 「強い西陽は紫色に変わりつつあり、その残照の中で、彼のカウボーイ・ハットが黒いシルエットになっていた。」P28 「さっきまで腹だたしいくらいにオレンジ色だったのに、この世の色とは思えないようなブルーがそのオレンジに重なり、最後の太陽が平原の黒をシルエットに、金色のオーロラとなって揺らいでいた」P58 主に通勤時の社内で読んでいたのだが、だからこそ、ここではない場所への 憧憬が強まったのかもしれない。 ある程度の制約があった方が想像力というか感受性が強くなるというべきか。 13章ある中で最も心に響いたというか極めてアメリカ的だったのは8章「青いトマトのフライ」だ ほっこりしたナマズフライ(美味)の秘訣を尋ねるところからほっこりとした展開になると思いきや待ち受けていたのは虚無的なアメリカンライフとそこに至る原因が判明するまでの数頁に グッと来た。人生とは。 本書は単行本から文庫を経て再度単行本という流れを経ている。 同じ内容でも優れた本質を持つものは出し方によってまた甦るのだということだろう。 この本は何か違うぞと思わせるクロス調の造本も素晴らしい限り。 「おわりに」で著者は原稿に手を付ける時に聴いていたパットメセニーのライブCD「トラヴェルズ」を紹介している。アメリカの空を思わせる開放感のあるヌケたサウンドが本の世界をさらに膨らませてくれる傑作だ。 付け加えるならばパットメセニーとチャーリーヘイデンによる「ミズーリの空高く」もおすすめしたい。
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