
伍エ捫
@Goemon_VS
2026年6月9日
火車
宮部みゆき
かつて読んだ
何故女性が自己破産したのか、今からそれが本人の口から語られるというところで終わってしまって肩透かしを食らったけど、これは女性の生き様を主人公と共に追って何を感じたのか、と読者に問い掛けている作品である気がするから、真相は作家さんのみぞ知る、この終わり方が一番美しいのかなと思った。
クレジットカードの多重債務は、いつ我が身に起こってもおかしくない出来事だから、本当に気を付けなければいけない。
また、こうして泥沼に嵌って抜け出せなくなった人に対して、ただ一言「愚かだったから」と切り捨てて、そこに至るまでの背景を顧みないのは良くないな、とも思った。
無責任な野次馬にならないよう気を付ける必要はあるけど、知ることは大事。
でも個人的には、この小説の真価は比喩が潤沢であることだと思ってる。まさに比喩の宝石箱。めっちゃ興奮した。
書き手が人間だから、何かを描写する際に人間目線になるのはごく当たり前のことだけど、それにもかかわらず宮部さんは多彩な目線で描いているから凄い。
天気が良くて温かいことを、
「恵まれない野良犬の鼻の頭もぬくぬくと温めてくれそうな日差しが溢れている」
って表現されていて感動した。
普通「日の光の温かさが身体に染み込んでくる」みたいに、自分がその舞台に立った時にどう感じるか、で描くでしょう。なんすかこれは。
あと、春が兆し始めていることを、
「気の早い暦の上ではもう春のはずだが、少なくとも、公園内の草木は、まだそのことを知らされていないようだった」
って表現されているのも素敵だった。
このあと「ほっそりとした枯れ枝を無数にのばし〜」って続くけど、目で捉えた景色を見たまま描写する前に、捉えた物事に寄り添ってるの好き。
賞で審査員を務めた際の評言も然り、寛容で素敵な方なんだろうなってことが伝わってくる。
お気に入りは、キャラクターが不意を突かれた時の表現。
「そば屋のカウンターに座ったのにフランス料理が出てきた、というような顔をした」
これ大好き。
ごちそうさまでした。

