蛸足配線
@nekoai30
2025年3月24日

犬のかたちをしているもの
高瀬隼子
読み終わった
郁也を引き留めたい気持ちからか、彼に内緒で薬をやめ性交に挑む主人公は、決してロクジロウを愛するようには彼を愛していないように思える。だからこそ、犬を慈しむように愛したいと願うのか。「おれがいないと生きていけない」薫を手元に置こうとする郁也の執着もまた、「犬のかたち」のものに向けられる感情ではないだろう。不首尾に終わった行為のあと背中に残る熱は、「北見さんのお父さん」に一方的に触れられたときと同じく他人から発せられたものだ。男の体しか持たない郁也は、紛れもなく当事者であるにもかかわらず、妊娠や出産に対してはどこか他人事のようで、意思のない人形のようにミナシロと結婚しながらも薫との同棲をずるずると続けている。


