
ピエ
@pie_202
2026年5月16日
オリガ・モリソヴナの反語法
米原万里
読み終わった
いやー抜群に面白かった…
以前に米原万里の没後20年の特設サイト(下記)が話題になっており、Twitterでおすすめされている方がいたので手に取ってみたら、夢中で読み切ってしまった。
https://kadobun.jp/special/yonehara-mari/
10代前半をプラハのソビエト学校で過ごした主人公・志摩が、当時の舞踊の教師オリガ・モリソヴナの謎を追い、ソ連時代の記録を紐解いていく。ソ連崩壊から間もないロシア社会はまだ混乱の中にあるが、中年に差し掛かった志摩や友人たちはするすると立ち回りながら真相に迫ってゆくため、退屈する暇がない。
登場人物たちの描写も豊かで楽しい。褒め言葉で批判するオリガ・モリソヴナの「反語法」やバリエーション豊かな悪態の数々に冒頭から笑わせられるが、過去が明らかになるに従って、彼女のことがどんどん好きになってしまう。
志摩に協力してくれる人々は優しい上にとんでもなく頭が回り、まさに最高な女たちである。米原は小説よりエッセイを多く書いているようだが、この人物描写力があるならさぞ面白いだろう。
また、志摩が親しい人から呼ばれる、ロシア語風の愛称「シーマチカ」が愛おしかった。
本作のように日本語で書かれた外国を舞台にした小説の良いところは、日本の読者の知識レベルに合わせた説明を物語に組み込んでくれるところである。
学生時代に習ったソ連の歴史を忘れかけている我々のために、登場人物たちは「19XX年に〇〇が〇〇したことで、〇〇になっていったでしょう」というような解説めいた台詞を挟んでくれる。旧ソ連圏の人同士が話しているのだから、本来ならこんなことは一々言うまでもないのだが、この小説は独白が多いのであまり不自然さを感じなかった。
これが海外文学の翻訳であれば、訳注を逐一見ながら読み進めることになり、話の流れが頻繁に中断されてしまうところだ。
巻末に書かれた参考文献の多さにも圧倒された。
そもそも米原のプラハ時代の体験を下敷きにしている箇所も多く、この物語の重厚さは経験と調査が合わさって生まれたものなのかと納得した。

