
ななり
@bluebook_mark
2026年6月20日
読み終わった
「ソリティアおじさんがいた頃」村司侑
タイトルと書き出しに反して、描かれるのは過去ではなく、ソリティアおじさんと呼ばれていた黒野田さんにお世話になっていた恋人の代わりに、彼の通夜へ行くことになった“わたし”の現在の数日間で、はじめはもっと違う適した看板があるんじゃないかと思ったりもしたのですが、読み進めるうちに段々と、この小説には語り手以外の人たちにとっての《ソリティアおじさんがいた頃》も書かれてはいないけれど書かれているのだと感じるようになり考えを改めました。現在からは決して手が届かないのに向こう側からは事ある毎に触れられ影響を受ける過去や記憶という少し理不尽にも思える存在にいつかなる私として私は今日も誰かとともに生きているんだなあとそんなことも思ったり。味噌屋、ソリティア、京都弁といったアイテムの選択も、それに過剰な意味を背負わせず小説から力感を抜く書き方も読んでいて気にならずとても巧かったです。何でもない物語がイコール退屈な物語になる訳ではない、つまり何を書くかではなく、どう書くかによって小説はいくらでも面白く魅力的になる、そのことを示す良い短篇だと思いました。
