浸る
@rattatatatat
2026年6月20日
傷の声
齋藤塔子
読了
2024年5月8日、妻・塔子はこの世を去りました。
と作者の夫による文章からこの本は始まる。
そして、《家族への手紙》この本を手に取ってしまった家族へ、と題して作者が自分の家族に向け、この本は一生読まないでください。あなたが少なからず傷つくからと綴られる。
この本は過酷な環境で育った作者が、傷を負った当事者として、また1人の看護師として、真摯に傷に向き合った魂の記録だ。
彼女を書くことに向かわせたのは、強制入院させられて、「判断能力のない病者」として身体拘束を受けた屈辱の原体験だった。
その体験がきっかけとなり、なぜこうなるに至ったかという、過去の壮絶な家族の物語が始まる。
─私が大事にしてほしかったことは、自分なりの物語を持った人間として認識してもらうこと、その物語について通じ合う言葉で誰かと話し合うことだった。─
印象的だったのは、兄との対話のシーンだ。
支配的で恐ろしかった父と、その父に逆らえず不安定な母。そんな家庭環境で同じ空気を吸って育ったはずの兄と、感じていた父像・母像が微妙に違ったのだ。
ある時から「他者と境界線を引くこと」を身につけたという兄から、家族のことに関して、塔子は気にし過ぎなんじゃないかと言われ、後にこう書いている。
─私は他者と溶け合ってしまうことが多い。それは喜びであることもあれば、重荷であることもある。私の原家族のようにならないためには境界線を意識するのは大切だと思う。けれど、時に境界を侵犯し合ってしまうのが人間関係の本質であり、それによって、深い慈しみも深い憎しみもガラガラポンで出てくるような気がするのだ。だからやはり境界線を引くならば実線ではなく点線でよい、と私は思う。─