時間のかかる読書人 "おやときどきこども" 2026年6月22日

おやときどきこども
そうやって原因をひとつに還元すること自体、因果論の影に暖っていると言わざるを得ないのです。私たちは、ストーリーによってそれ自体に近づくことはできても、それ自体を捉まえることはできません。ストーリーは個人にとっての支えであり、それがいかに救いではあっても、決してほんとうではないのです。その見方を忘れてしまうことは危険です。なぜなら、それは自分の多様な生の可能性をストーリーに乗っ取られ、奪われてしまうことと同義だからです。 その意味で礼太郎くんは賢明だと思います。彼はひとつのストーリーを手に入れようとしたとたんに、それが手もとからあっけなくこぼれてしまうところまで見つめているからです。自分にとっての真実がどこにあるのかわからない、そうと言いながら顔を歪めた彼の正直さを思い出すたびに、私は胸が苦しくなると同時に、どこか厳粛な気持ちになります。
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