___.♡ "生殖記" 2026年6月23日

___.♡
___.♡
@yuyurara
2026年6月23日
生殖記
生殖記
朝井リョウ
擬態というバリケード。 擬態していれば本心を明かすことなく、うまい時には透明人間になれるすぐれもの。すべては心の安寧のため。他者から無闇に削られないよう穏やかな心を守ろうとして生まれていたもの。 語られる言葉は流暢で淡々と。 でも熱を持っているから、のめり込むほど感覚が麻痺していく痛みと、追いやって声も出せずにいた叫びや縛っていたものたちがつぎつぎに解放されて外の空気をようやく吸えるような感覚でもあった。 あらゆる葛藤と本音をこぼせず抱えながらひとりで考えて考えて考え尽くして取捨選択を繰り返しながら、" 擬態 " と、" トリミング " をしてきた尚成に感情が重なり胸が詰まった。 息を潜めることを覚えてしまう哀しさ。他者からの攻撃をよけるために犠牲になっているものの多さ。 感情を封じて、線引きして、遮断して、気配を消すことで得られるものって一体。こうまでしないと避けれないなんて。どうして悪いこともしていないのに身を隠さなければいけないのだろう。どうして頑丈なバリケードが必要になってしまうのだろう。 なんとな〜くの空気感で人を簡単にはじく人間って一体。 絶え間なく振りかかる圧に覆われながらも呑み込まれる前に自分が存在する理由、存在していい理由、肯定できる何かを、わずかな光を求めて細い糸のようなものでもいいからつかもうとする姿と期待していたわずかな光すらつかめず落ちていく姿になんとも言えない気持ちになった。 そこには、かなしいくらいの現実が映されていたから。 この語り主でないと照らせない場所があったと朝井リョウさんが話していたように、最後の最後に驚きと一瞬にして視界が開けるというか幻覚から目が覚めるというか一瞬にして重たい荷物が軽くなる、そんな、いや、これぞ朝井リョウさん!と唸ってしまうような、ひとつの新しい景色に辿り着けたことに感謝だった。 そうか、そんな視点がまさかあるとは、と気にしてやまない自分の存在感が軽くなったことに、えぐられながらも最後まで耐えてよかったと、すばらしい作品を完走できたことへの満足感も大きい読書体験でした。
読書のSNS&記録アプリ
hero-image
詳しく見る
©fuzkue 2025, All rights reserved