糸太 "地球にちりばめられて (講談..." 2026年6月24日

糸太
@itota-tboyt5
2026年6月24日
地球にちりばめられて (講談社文庫)
留学中に祖国を失ってしまったHirukoを中心に動き出す物語。極東の島国は自然災害で沈没したようにも仄めかされるが、はっきりとしたことは分からない。遠い昔の人々の記憶から消え去ろうとしている国とも読めるが、そうするとHirukoという一人の人間に起こった出来事であるはずがない。 時空が歪む。だから読みながら焦点を合わせようと目を細める。すると、うっすらと見え始める景色がある。失ったのは国そのものではなく、自分自身が拠って立つ根拠ではなかろうか。 つまりアイデンティティ。国籍はもとより性別や家族など、物語の中ではさまざまな境界が揺らいでいる。 なかでも大きいのが言葉だ。Hirukoはスカンジナビア地方の言語をつぎはぎした、パンスカという自作の言語を話す。言語が変われば思考そのものも変質する。私は誰だろうと考えるときも、言葉からは離れることはできない。 だからもしも言語がオリジナルになったとき、個人はこれ以上にないほど差別化される。ただ、共感はされない。だからHirukoは、母語話者との会話を求めて旅に出る。この旅路に巻き込まれる登場人物たちもまた、言葉の問題に直面しながら、次第にぼやけていくアイデンティティに心が揺れる。 境界を越えていくのではない。境界そのものが疑わしくなるのだ。これから私たちが迎えるかもしれない、個が解体していく世界を予感させる。 Hirukoの旅は始まったばかり。さあ、二巻目へ急ごう。
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