活字畑でつかまえて "シャーロック・ホームズの冒険" 2026年7月1日

シャーロック・ホームズの冒険
シャーロック・ホームズの冒険
コナン・ドイル,
アーサー・コナン・ドイル,
延原謙
初シャーロック•ホームズ 村上春樹のなんの小説だったか、主人公 がこの作品を読んでいて気になっていた。 けっこうそれは無理があるだろうというトリックがあり、他の作品を読みたいと思わせるまでの水準ではないが、しかしホームズはやはり魅力的だしワトソン君との関係も素晴らしい。 当たり前だがちゃんと工夫が凝らしてあり登場人物や街並の描写など匂い立つような魅力がある。 お気に入りは『ボヘミア醜聞』と『椈屋敷』かな。 『ボヘミアの醜聞』 「一方ホームズのほうは、例の世事に無頓着な気質から、どんな形式での社交をも嫌悪して、独りベーカー街の古巣にふみとどまって古本のなかに埋まり、」 ⭐︎いいねぇ。社交を嫌悪し古本のなかに埋まる生      活。たしかに村上春樹的だ。 「君はただ眼で見るだけで、観察ということをしない。見るのと観察するのとでは大ちがいなんだぜ。」 「まだ材料が一つもない。資料もないのに、ああだこうだと理論的な説明をつけようとするのは、大きな間違いだよ。人は事実に合う理論的な説明を求めようとしないで、理論的な説明に合うように、事実のほうを知らず知らず曲げがちになる。」 ⭐︎なんて含蓄に富んだセリフだ。 ⭐︎くぅ〜 なんてオシャレで機知に富んだ短編なん   だ。男などすべて女性の手のひらの上! 『赤髪組合』 ⭐︎うむー、ちょっと無理のあるトリックのような。  だってトンネルを掘るって易々とできる事じゃな   いしなぁ。  でも、「赤髪組合」というシュールな組織は村上春    樹に受け継がれているような気がする。 「一般に事件というものは、不可解であればあるだけ、解釈は容易なものだよ。ちょうど平凡な顔というものが見覚えにくいように、平凡で特徴のない犯罪というものこそ、ほんとうに解決がむずかしいものなんだ。」 「彼の気質は極端なゆるみから極端な緊張へ、また極端なゆるみへと移りかわって、その中間に停滞する場合というものがない。私はよく知っているが、だから、彼が幾日も幾日も、わき目には怠情そうに肘掛椅子にへばりついて、即興詩や古版の書物に埋もれているときほど、しんじっ恐るべきはないのだ。そうしているうちにとつぜん、あの活動欲がわきおこり、あのはげしい推理力が、まるで直感かと思われるばかり敏速に働きだし、彼の手法を知らぬ者の眼には人間以上の知能をもっているのではないかとまで、疑わせるにいたるのだ。 この日も私はセント・ジェームズ会館で、彼がすっかり音楽に浸りきっているのを見て、この男に見込まれたやつらにとって、一大危機が迫りつつあるのを感じたのである。」 『花婿失踪事件』 ⭐︎うむー、このトリックもどうだろう?  いくら近眼とはいえ変装した義理の父と気付かな      いのはちょっと解さない。  恋は盲目といってしまえばそれまでだけどね。 「とるに足らぬ事件のなかにこそ、つねに観察の場があり、原因と結果とを敏速に分析する活きた舞台があり、そこにこそこの仕事のもつ魅力があるのだと思う。」 ⭐︎観察の場、という表現がいいな。 「入口まで来てためらうのは、必ず恋愛問題だ。相談はしたいが、人にうちあけるにはちと恥ずかしい気がする。もっともこれにも差異はある。男にひどい目に合わされたのなら、その女はためらいなぞしていない。その場合の徴候は呼鈴の紐のきれるのが普通だ。」 『ボスコム谷の惨劇』 「あなたの健康状態からみて、何も処置いたしますまい。あなたはほどなく、巡回裁判よりもはるかに高い裁きの廷に立って、ご自分の行為の責を果す覚悟でおいでです。」 『オレンジの種五つ』 ⭐︎犯行の詳細が分かりにくい所があるが、ホームズ   が依頼者を救えず死なせてしまった事件の一つな     んだろう。  終わり方がカッコいい。 『唇の捩れた男』 「すこしばかり顔を塗って、どろのうえに帽子を置いてすわってさえいれば、一日でそれくらいの金になる途があるのに、一週二ポンドぽっちでこつこつ働いてくすぶっていなければならないとは、どんなに辛いことかお察しくださるでしょう。矜持(ほこり)をすてようか金を得ようかの二途に、私は久しいあいだ苦しみました。結局金銭のほうが勝ちをしめ、記者の職を放棄して、くる日もくる日も最初に選んだ場所に土下座しては、恐ろしい顔で人々の同情をひき銅貨でポケットをふくらますことをはじめたのです。」 ⭐︎わかるよ、わかるよ  ほんとコツコツ働いてもちっぽけな金しか稼げな  いなら、いっそ生活保護!とか思ってしまう気持    ちと似たようなものだろう。  貧すれば鈍するじゃないが、矜持(ほこり)を捨   ててまで家族を養うためにした乞食商売を誰が笑   えようか。矜持(ほこり)なんてクソ喰らえ!の    時だってあるのだ。  たとえそれで心まで捻れてしまってもね。 『青いガーネット』 「そとは一片の雲もない空に星が冷たくこおりつき、道ゆく人のはく息は白い煙となって、あっちでもこっちでもピストルを発射しているように見えた。」 ⭐︎すごい表現。  すごすぎる。はく息の白さをピストルの煙に見立  てるなんて💨 『まだらの紐』 ⭐︎なるほど。毒蛇か。  でも、真の闇の中でホームズがステッキで毒蛇を  打つことは簡単なことではないし、更に毒蛇がロ   イロット氏に遅いかかり死にいたらしめる結末は  いまいち腑に落ちない。 『花嫁失踪事件』 ⭐︎いやいや、これ  あまりにもセントサイモン卿が気の毒すぎやしな    いか。ハティ夫人の裏切り、あんまりだぜ。だま    ってずらかるなんて最低じゃないか。最低の裏切   り行為だ。自分勝手がすぎるぜ。 「われわれの子孫もいつかは愚かな君主や失政だらけの大臣から解放されて、世界的に大きな一大国家の市民となる日がくる、」 「ちょっと椅子をよせてそのヴァイオリンをとってくれないか。われわれにのこされた問題は、このもの寂しい秋の夜をいかにしてすごすべきかにあるんだ」 『椈屋敷』 「君の過っている点といえば、おそらく、書くものに血や肉をつけたがるところにある。」 ⭐︎これは至極、金言である。  言葉の贅肉! 「僕が自己の芸術にたいして全幅の公平を要求するのは、それがけっして僕個人の問題ではないー僕というものを超越した問題だからだ。」 ⭐︎これもまた、金言。  ホームズは自分というみみっちいもののために奉    仕しているのではない。 「材料だ、材料だ、材料だよ!粘土がなくて煉瓦が作れるもんか!」 ⭐︎これもまた、金言。 「ヴァイオレット•ハンター嬢に関しては、私はそれを知って失望を感じたのではあるが、ホームズはひとたび彼女が事件の中心でなくなると、それきり何の関心をも見せなかった。」 ⭐︎ホームズのこの冷徹さがいい。
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