伍エ捫 "新しい花が咲く" 2026年6月30日

伍エ捫
伍エ捫
@Goemon_VS
2026年6月30日
新しい花が咲く
新しい花が咲く
宮部みゆき
宮部さんが好んで使われる「横っ腹」って単語がさっそく出てきて、開始2行で嬉しくなった。 「バスのアナウンスの声がNHKの気象予報士の声に似ているな、その人が副業してるのかな」とか、物事の捉え方が面白い。 以前読んだ宮部さんの別の短編が300頁自由形といった感じで、長編よりも比喩がさらに多彩だったから楽しみ! 寂れた畑の真ん前にあるバス停で、背広姿の男性が降り、パンツスーツの女性が乗車したのを受けて「ここには政府の秘密機関の通用口があるかもしれない」と思ったり、 そこまで角度が付いてない、言わば「丘」レベルの坂道ですらエンジンを唸らせるなんて、「山」レベルだったらこのバスはどうなるのか思案したり、最初のよし子さんの句のお話はひたすら物事の捉え方が面白かった。 それで表現楽しすぎだろってニヤけながら読んでたら、女性が枯れた向日葵の群れと対峙して、これまで抱えてきた後悔一つひとつと向日葵を重ね合わせて自分の人生を回顧し始めて、冷水浴びせられた。温度差が激しい。 帰る際に枯れた向日葵を何本か引き連れていたから、やけっぱちにならずに後悔を抱えながら生きていく選択をしたのかな。 最後の平和さんの句のお話が一番好き。とある三人家族の軌跡を、地の文一切なし・会話のみという中々見ないスタイルで描いていて面白かった。 舞台が旦那さんの実家近くにある展望台に固定されているから、その周囲に植わっている植物になって家族を見守っている気分だった。会話だけで進むため、会話の隙間部分をこっちで想像して補完することになり、余計に寄り添えた気がする。成長していくに連れて新たな価値観を身につけていく娘の姿を、すっごい親目線で追ってた。 気の強い奥さんと温厚な旦那さんの掛け合いも良かった。この御本、結構な頻度でカス男が参戦してきて胸糞悪くなること多かったけど、最後の最後にこの旦那さんで浄化された。 若好さんの句のお話も負けず劣らず好き。語り手である小学校低学年の男の子目線に合わせて描いているから、描写が一々微笑ましい。 バッグを斜め掛けすることを「幼稚園掛け」って表現されているのなんかいいな。ツボ。『ペテロの葬列』でもお見掛けしたから、これもお馴染みなんだろうな。 途中で急に「読書諸賢の中にも『わかる向き』と『わかんない向き』があるでしょう」って話し掛けられて笑った。一方的に婚約を破棄した元恋人がくれた物(金の出所は自分の財布)を捨てたりリサイクルショップに売るのは惨め、という考えは、わかるけど当て嵌まらない向き。自分ならさっさと売って本買うかな。 登場人物が全員気のいい人で、読んでいて和んだ。 『プレゼントコートマフラームートンブーツ』 この俳句から、傷心中の女性がひょんなことから男の子と出会い、ささやかな奇跡を目にして前を向く、というストーリーを練り上げるの凄いです。 話の構成だと、二つ目の薄露さんの句のお話が一番好き。 視点がコロコロ切り替わり、新たな視点が加わるたびに偽りのベールが剥がれていく、先を読みたくなる流れだった。ミステリー作品でたまに見るこの構成、大好き。 良かれと思って口にした言葉で相手を傷つけてしまうことがあるなど、自分の行動をあらためて見つめ直すきっかけも多く得られる、味わい深い作品だった。 続刊出たら絶対買う。
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