レッチリ
@oi09065910811
2026年6月29日
わたくし率 イン 歯ー、または世界
川上未映子
読み終わった
川上未映子のデビュー作である本作は、流れるような文体と目まぐるしく移り変わる主人公の思考や感情に振り解かれないように読み進める、そんなラフティングのような読書をさせてくれる。奥歯というものに自分の実存の全体重を預ける主人公は、自分の口腔内から一歩も外に出ることができず、あるいは外から拒絶されたから奥歯へと前線を引き下げることになったのかもしれないが、つまり彼女にとつて唯一コンプレックスを抱えていない奥歯という部位が彼女を外部から守ってくれる領域として機能していたが、その領域は突如として破壊され、もはや機能を失った奥歯は彼女にとって必要でなくなり、彼女は奥歯を抜く。普通にしていたら人の奥歯、あるいは自分の奥歯すらなかなか見ることはない。だから奥歯というのは象徴として機能し得るのに十分だったのだ。また、文体も独特で素晴らしく、このような文体で物語を紡げる作家は希少であると言える。