
阿久津隆
@akttkc
2026年6月21日
読み終わった
残りを読んで、ナーシサが出産した。まどろむような時間のなかでナーシサとミス・ジェニーとジョニーと名付けられた子どもは暮らして、ミス・ジェニーが墓場に行って、一族の墓を見て回った。そこにドクター・ピーボディと息子のルーシュがやってきてしばらく話して、ミス・ジェニーが去っていった。その後ろ姿を見ながらルーシュは「そしてまたもう一人、ですか」と言って、「やがて大きくなり、家の人たちに気を揉ませ続けて、結局はそうするだろうとみんなが思っていることをやりおおせる、そういう者がまた一人というわけですね。まあ、あるいはあのベンボウの血が、いくらか落ちつかせるかもしれませんが。物静かな人たちですからね、あの娘の方は。ホレスは言ってみれば…………それに女手だけで育てるわけで…………」と言って、父は「サートリスの血も入っとるんだからな」と言った。
それからミス・ジェニーは帰宅し、ナーシサとふたりで過ごし、ナーシサがピアノを弾いた。ミス・ジェニーはジョニーについて話し続けていた。
p.539,40
ナーシサは、まるで何も聞いていないかのように、うっとりと、気もそぞろに演奏していた。それから、手もとめず、振り返ることもなく、彼女は言った―
「あの子はジョンじゃありません。ベンボウ・サートリです」
「何だって?」
「あの子の名前はベンボウ・サートリスです」と彼女はもう一度言った。
ミス・ジェニーはしばしのあいだ、身じろぎもせずに座っていた。隣の部屋ではエルノーラが、夕飯の食卓の準備で動きまわっている。「それで、何かの役に立つとでも思っているのかい?」とミス・ジェニーは問いただした。「名前一つで、あの連中の一員を変えられると思っているのかい?」
10行くらいするとまたミス・ジェニーは口を開いた。
p.540
「そう思うのかい?」ミス・ジェニーはもう一度言った。「名前がベンボウっていうだけで、あの子がいくらかなりともサートリスじゃなくなって、ならず者や愚か者じゃなくなるって?」
それでもう少しすると小説は終わりになって、サートリス家の男たちの呪われ具合というか、どうしようもない具合のこき下ろし方がすごくて笑ってしまうとともに、ナーシサの静かな決然としたそれは、『サッド ヴァケイション』の板谷由夏を思い出させた。