
ユメ
@yume_bookworm
2026年3月28日
一瞬の風になれ 第三部 -ドンー
佐藤多佳子
読み終わった
感想
再読
『一瞬の風になれ』という物語の中には、きらりと輝きを放つ名場面・名台詞が本当に山のようにあるのだけれど、私がいちばん好きなシーンはこの第三部にある。怪我をした鍵山に代わって4継のメンバーに選ばれた根岸が、朝練でひとりわざわざカーブのラインを引いて、コーナー走の練習をしている場面だ。
リレメンの中で唯一ロング・スプリンターであるというハンデを背負って、誰より真剣に取り組む根岸。チームにとっての本番は南関東大会以降だという空気がある中で、県大会までを任される形になる彼の胸中には、どれほど複雑な想いがあることだろう。それでも、何よりチームとして速く走りたいと願い、そのためには自分が足を引っぱってはならないと誰より朝早くから練習するその誠実さに、胸を突かれる。新二は「根岸といると、時々、マジで泣きたくなる。人間は悲しいとか、人間は素晴らしいとか、そんなことだが、言葉になんかできない」と語るが、私も人間の素晴らしさをひしひしと感じて涙をこらえきれなかった。
根岸の姿を見て、レースは一期一会であるという想いを新たにした新二の、「人と人とのつながりに、飽和状態なんてないのかもしれねえな」「リレメンの友愛も無限かもしれないね」という熱い独白も好きだ。ひととひとが想いを繋いでゆくことの美しさを見せてくれるこの物語に出会えてよかったと、もう何度目になるのかも分からない感想を抱く。


