蛾のおどり "高丘親王航海記" 2026年7月2日

高丘親王航海記
「ねぇ、ミーコはほんとうに、死んでもよいから天竺へわたりたいと考えていらっしゃいますの。」 その秘密めかした抑揚のある声の調子に、親王ははっとして、あらためて姫の顔を横からうかがい見た。微笑をふくんではいたが、姫の面上には、これまでに親王が何度も見たことのある、あの残忍のいろが一瞬、さっとはしりすぎたように思われた。それでも親王はことさら気にかけず、 「もちろんですとも。渡天はわたしのいのちを賭けた大業ですから、死ぬことは少しも厭いませぬ。」 「すると、天竺へついてから死なれても、死なれてから天竺へおつきになっても、結果的にはそれほど変りませんわね。」 「それが時間的に一致すれば、それに越したことはないでしょうがね。望み薄だとあらば、どっちが先でも一向にかまいませぬ。」
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