powder0311 "時の旅人―H.G.ウェルズの..." 2026年7月4日

powder0311
@powder0311
2026年7月4日
時の旅人―H.G.ウェルズの生涯 (1978年)
時の旅人―H.G.ウェルズの生涯 (1978年)
ノーマン&ジーン・マッケンジー
中断していたけど再開。 H.G.ウェルズ、1866年生まれ没年は1946年。こうやって眺めるとかなり長生きの作家だ。交流のあったコンラッドやヘンリー・ジェイムスはとっくに故人だし当代の作家たとえばD.H.ロレンスやヴァージニア・ウルフもすでに去っていた。 600ページのボリュームだけどSF作家として「タイムマシン」などの代表作を書いた前半生はその三分の一もない。著者はかなり辛辣な寸評を交えて文才が枯れてゆく姿を描く。たとえば晩年についてはこんな感じだ。 「このころの執筆した小説はすべて、H.Gが記憶の屋根裏部屋をごそごそあさって、古ぼけたアイデアや筋書きさがしだし、その埃を払って晩年の用に供している人物のような印象をあたえるものばかりである」 確かに、中年になると「世界文化史大系」で商業的には成功するも小説のほうは冴えなくなる。代わりに出てくるのは“モメ屋”気質で、自分へのささいな不満にも激怒して紙上で延々とレスバする。摩擦こそが人間関係だと思っているタイプ。でも会って見ると人々を魅了するすこぶる好人物だったらしい。難儀な人だ。 ウェルズはビジョナリーな人物だった。そのSF小説さえもたとえばヴェルヌから「科学じゃない」と当時から批判されていたのはちょっと驚きだった。改めて考えると「海底二万里」と「タイムマシン」のどちらが科学的かは明らかだ。しかしどちらが後世に残るだろうか?ヴェルヌだって「十五少年漂流記」の作者としての文声の方が残るのでは? 後半生はなかなかつらい。繰り返されるモチーフはやがて弾力を失い、理想の社会も浮世離れしていったのだろう。フェビアン協会での対立は退屈極まる。多くの女性関係も老年とともに萎んでしまう。彼の政治について呼びかけるけれどフルコミットしないという実現能力の無さは本書で再三指摘されている。一方で晩年でも、ウェルズのソ連やナチスに対する評価は急所を捉えている部分もある。 誰かの落日はしんどくもあり甘美なのだ。それをたっぷりと提供してくれる本を人生の後半に夜な夜な読むというのはなかなかおつなものだ。ともあれ、「タイムマシン」は名作である。
読書のSNS&記録アプリ
hero-image
詳しく見る
©fuzkue 2025, All rights reserved