本屋lighthouse "アウステルリッツ(新装版)" 2026年7月4日

アウステルリッツ(新装版)
アウステルリッツ(新装版)
W・G・ゼーバルト,
鈴木仁子
断片的とも言える過去がアウステルリッツによってとめどなく語られるが、全編とおして段落がほぼないため読み手=聞き手はその語りを自らの意思で中断することが難しい。私はずっと、アウステルリッツの話を、アウステルリッツのリズムで聴いていた。「とアウステルリッツは語った」というフレーズが何度も挿入され、そのたびに息がつけるかと思いきや、深く吸いこんだ息を吐き出さずにとどめておくのは苦しいように、気づくとまた続きを追い始め、やめどきを忘れてしまう。いや、とめてはならないという切迫したなにかをも感じていたかもしれない。アウステルリッツの語る過去、その光景も心象も私は理解できないことばかりで、だからこそ「この話を聴きつづけなくてはならない」と思ったのか。ユマニチュードを実践するスタッフが、相手の視界に入り、顔を近づけ、ゆっくりと話しかけつづけるように、私はアウステルリッツの視界に入ろうとして、まなざしをとらえ、かれの話を聴いていた。そうであったらいいなと思った。
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