阿久津隆 "エミリーに薔薇を" 2026年6月22日

阿久津隆
阿久津隆
@akttkc
2026年6月22日
エミリーに薔薇を
エミリーに薔薇を
フォークナー,
高橋正雄
続きを読んで、側仕えの黒人が逃亡していた。『アブサロム、アブサロム!』のサトペンの百マイル領地から逃げ出したフランス人建築家のことを思い出したが、こちらは集落の頭が死んで、側仕えの人間は墓でも側仕えをするということで墓に一緒に入らないといけないらしかった。日が暮れて、川岸を這っているとヌママムシに噛まれた。 p.44 蛇はへまな噛みつき方をしたので、彼のうでにまるで剃刀の傷のような長い二つの傷をこしらえ、勝手に勢いこみ怒りたけって半分へばってしまい、自身の不手際と猛毒の怒りによって一瞬完全に身動きできなくなってしまったように見えた。「がんばる(オレー)だ、じいさん」と黒人はいった。そしてその頭にさわり、それがふたたび三たび自分の腕を深く、引っかくように、不手際に、噛みつくのを眺めていた。「これというのも、おらは死にたかねえからだ」と彼はいった。ついでもう一度その言葉を―「これというのも、おらは死にたかねえからだ」―とゆっくり、ぼんやり驚きながら、おだやかな口調でいったが、あたかも、その言葉が口からひとりでに吐かれるまでは彼自身そんなこととは知らなかったようであり、それともまた、それまで自分の欲望の深さと広さを知らなかったかのようだった。 自分の腕を噛むヌママムシを応援する感覚の想像のつかなさがいい。死にたくはないんだなあ、やっぱり、そうなんだなあ、と思いながら読んで、腕はそのあと、腐って、悪臭を放っていった。
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