阿久津隆 "八月の光" 2026年6月28日

阿久津隆
阿久津隆
@akttkc
2026年6月28日
八月の光
八月の光
フォークナー
ハイタワー牧師が出てきて、ハイタワー牧師! と思う。『八月の光』は大学生のころに初めて読んでおそらく10年前くらいにもう一度読んで、これが3度目っぽく、ハイタワー牧師は完全に覚えのある名で、この人はきっと、ゴシック体で長々とした長広舌とかを振るいそうだ、そういう言葉の奔流を見たい、浴びたい、ハイタワーさん、ちょうだい! そんな気分で、登場をうれしく思いながら、ハイタワー牧師が町の人々から除け者にされていく様を眺めた。 p.94 妻を悪に追いやって自殺させたのも、彼が通常の夫、正しい人間ではなかったからだ、原因はあの黒人女なのだ、といったことがささやかれた。そしてそれが誰をも納得させ、欠けていた答えをすっかり満たした。バイロンは静かに聞きながら、どこでも人間はみんな同じなんだな、と考えていた、ただし小さな町だと、悪事はさらにやりにくいし、プライバシーを守る機会はさらに少ないから、そこでは人は、他人のなかに普通以上にありもせぬ悪を見つけがちなのだ、と考えた。なぜなら悪を見つけるにはたった一語でたくさんだったのだ、ある思いつき、つまらぬ言葉ひとつが生れればそれが人々の頭から頭へ伝わるのだ。 p.98 到着した医者は、女がベッドから落ちてハイタワーに見いだされたあのときに胎児をいためたのだ、それに違いはないと言った。彼はまたハイタワーの処置が正しかったと認め、女の夫もまた不満はなかった。 『だがあれは、前のあの事件とあまりに近すぎたんだ』とバイロンは思った。『その間に十五年の年月がたっていたけれども、それでも、まだ近すぎたんだ』。なぜなら二日もせぬうちにもう、あれは実はハイタワーの子で、だから彼はわざと死産させたのだと言う連中が出てきたからだ。しかしバイロンは、こんなことを言った本人でさえ実際はそう信じてはいないのだと思った。町ではこの面目を失った牧師のことについて根もないことをあれこれ言う習慣がついていて、その癖があまり長すぎたので、いまさら破れないのだ、とバイロンは考えた。『なぜって、いつも』と彼は考える、『何事でも習慣になると、それはまた真実や事実とはうんとかけ離れたところへ行ってしまうものだからな』。 今日は長いことXを見ていて、Xでは今日も炎上騒ぎがおこっていて、それぞれがそれぞれの正義を振りかざして他人に鉄槌を食らわせていた、仮想された被害者へのおもんぱかりのような顔をしながら、激しい攻撃性を躊躇なく発揮する人たちの姿がたくさんあった。そのことを思い出しながら読んで、眠くなると明かりを消して、目を閉じたが眠気が見当たらないので、もう一度明かりをつけて、もうしばらく読んで、眠くなったことに気づくことなく(だから明かりを消すことなく)眠りに入った。
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