
人工芝
@_k55y
2026年7月10日
追想五断章
米澤穂信
読み終わった
過去とは決して終わった時間ではなく、今を生きる人間の中で形を変えながら息づき続けるものなのだと、静かに語りかけてくる作品だった。
物語は淡々と進んでいくが、その静けさの中には人が誰かを想う気持ちや、記憶が抱える曖昧さ、
そして言葉にされなかった感情が幾重にも折り重なっている。
一つひとつの出来事は控えめでありながら、読み進めるほどに少しずつ輪郭を帯び、最後にはまるで散らばっていた欠片が自然と一枚の絵になるような心地よさがあった。
米澤穂信の文章は必要以上に感情を煽らない。
それゆえに、読者自身が行間を歩き、登場人物の沈黙や視線の先にある想いを受け止める余白がある。
その余白こそが、この作品の豊かさなのだと思う。
過去を知ることは真実を暴くことではなく、誰かの人生にそっと触れることなのだと気づかされる。
ミステリーでありながら、人の記憶や愛情の儚さを丁寧にすくい上げた、品のある一冊だった。




