ゆい "苦海浄土" 2026年7月10日

ゆい
ゆい
@no1sin
2026年7月10日
苦海浄土
苦海浄土
中村桂子,
加藤登紀子,
池澤夏樹,
石牟礼道子,
赤坂真理,
鎌田慧
> 潮で洗いあげて茹でた巻貝の小さな身を、木綿針でくるくると丹念に抜きためて水に晒らし、春の野芹を摘んで来ては和え物にしたり、菜種の油でからりといためて食べさせたりして、このかしら娘は、家族たちを喜ばせていた。 海にむいた縁側の日ざしに、愛らしい形のさまざまな巻貝をかざして見て、ひらりひらりと、その貝の身を抜きとるのである。そのような袖口には、いつも潮が匂い、人前ではあまりしゃべらない娘が、唄の続きにぽいぽいと、貝の身を、じぶんの口の中にもほうり込んでいた。貝をむく手つきのまま、同じ縁先で、編物を編む手つきも軽やかだった。庭先にいつも桜があったから。 あの貝が毒じゃった。娘ば殺しました。 おとろしか病気でござすばい。人間の体に入った会社の毒は。 死ぬ前はやせてやせて、腰があっちゃこっちゃに、ねじれて。足も紐を結んだように、ねじれとりましたばい。嫁入り前の娘の腰が。(P.312)
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