ユメ "ファイア・ドーム(上)" 2026年6月7日

ユメ
ユメ
@yume_bookworm
2026年6月7日
ファイア・ドーム(上)
私にとって辻村深月さんは新刊が出るのを心待ちにしている作家のひとりで、この『ファイア・ドーム』も事前に情報をチェックし、特典が配布される書店でいわゆるフラゲをして購入し、すぐさま読んだ。それぐらい楽しみにしていた一方で、本書を読むのは怖くもあった。あらすじを目にし、辻村さんの筆力でこの題材を描いたら、いったいどれほど胸が苦しい読書体験がもたらされるのだろう——と、信頼しているがゆえの恐怖があったのだ。 覚悟して臨んだはずの物語に、想像以上に打ちのめされた。辻村さんの卓越した心理描写により、登場人物と一緒に私の心もじわじわ追いつめられてゆく。それでも、ページを繰る手を止められない。 25年前、静かな地方都市で発生した百貨店受付嬢誘拐殺人事件。そして時を経た今、同じ町で再び事件が起こる。そのどちらをも、人々はその自覚がないまま娯楽として消費し、無責任な噂で焼き尽くした。「悪意ではない。そこにはただ、信じられないほどの軽薄さがあるだけだ」という言葉が、深々と胸に刺さる。 個人的な話になるが、私が以前勤めていた職場に、凶悪事件の顚末を追うのが好きなひとがいて、事件の加害者・被害者についての憶測を聞かされるのが苦痛だったことを思い出した。だが、それを諌めることなく、職場の人間関係を維持することを優先して黙って聞いていた私も、噂に加担していたことにはならないか。そんな自責の念を抱かされた。
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