ユメ "ファイア・ドーム(下)" 2026年6月9日

ユメ
ユメ
@yume_bookworm
2026年6月9日
ファイア・ドーム(下)
息を呑むシーンで終わった上巻から下巻へ突入すると、ページを繰る手がさらに加速した。 私は普段は文庫本しか持ち歩かないことにしているのだが、今回ばかりは分厚い単行本を持ち運んでせっせと読んだ。それぐらい、『ファイア・ドーム』から離れる時間が惜しかったのだ。折悪しく泊まりで家を空けなければならない用事が入っていたため、最後はホテルで寝る間を惜しんで読みふけった。慣れない場所であることと、壮大な物語を読み終えた感慨が相まって、ずいぶん遠くまで来たな——という不思議な心地がしたことを鮮明に覚えている。卓上灯だけを点けたホテルの客室の薄暗さとは対照的に、ラストシーンの光が晴れやかだった。 辛く苦しい展開が続き、人間の無邪気な愚かさに辟易とさせられた(それはもちろん、書き手の描写が巧いからに他ならない)上巻に対し、下巻では救済が待っている。改めて、辻村深月という作家と同時代に生まれることができてよかったと思わされる骨太なストーリーだった。 作中とりわけ印象的だったのは、新沼忠治が二つの事件の犯人にそれぞれ投げかけた台詞だ。彼は、娘を殺害した獄中の犯人に対して「病気なんかで、死ねると思うな」と苛烈な言葉をぶつける一方で、孫を誘拐した犯人と遭遇した際には「ありがとう、あんたは殺さないでいてくれた!」と感謝さえ伝える。この対照的な台詞に、25年前の事件が遺族に与え続けた重みと、それを書き切った辻村さんの凄味を見た。後者の台詞は、犯人にかける言葉としては一見奇妙にさえ思えるが、二度と戻らない娘の命の重み、無事に帰ってきた孫の未来の尊さ、双方を端的に表しているように感じる。こんな台詞が書けるなんて本当に凄い、と感嘆した。
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