
いぬい
@inuiru
2026年7月10日
みんなが手話で話した島
ノーラ・エレン・グロース,
Nora Ellen Groce,
佐野正信
読み終わった
手話のことって何も知らないなと思いながら読み始め、そもそも聾について何も知らないと気づき、聴覚障害や音声言語について調べながら読んだのでメチャクチャ時間がかかった(あと繁忙期の職場で昼休みにちょっとずつ読んだから余計に時間がかかった)。ちなみにAmazonのオススメに出てきたので買ったんだけど、あとがきによると円城塔が推薦文を書いていた? ようだ。
しかし調べ調べ読んだとは言え遺伝性聾の発生から聾を取り巻く環境までたっぷり書かれてたから知識のない私にも分かり易かった。いちばんよかったのは、島から聾者がいなくなったあとにも、手話を使うひとたちがいた、というところ。作中で書かれた手話の世界には音声言語とはべつの面白さがある。遠くに離れているときに手話で用件をつたえたり(便利)、手話で悪口を言ったり(便利)、手話で喧嘩したり(手話で「わめき散らす」場面……迫力がすごそう)……近年、漠然と外国語を勉強したい気分がじわじわ湧いていたんだけど、この本を読みながら「そうか、手話もある種の『外国語』というか、『言語』なんだよな」と思って、かなり興味が湧いた。私が漠然と外国語……と思ったのは「アメリカ行きたい」みたいな具体的な理由じゃなくて(マコーマックの未訳作品を読みたい……というのはあるんだけど)新しい言語を得ることで思考の広がりと言うか開きかた? が変わるかもなあ、と思ったからなんだけど、だとしたら手話という身体言語は完全にべつのチャンネルだ。勉強してみようと思っていろいろ調べてるところ。
個人的に面白かったところ。
157p
" 聾者は漁業関係の仕事の中で捕鯨にだけは手を出さなかったらしい。エドガータウンは代表的な捕鯨基地だったが、島の若者たちの多くは捕鯨船に乗ろうとはしなかった。聾であることが妨げとなったのかどうかは分からない。"
聾者のなかには腕利きの船乗りが何人もいたとも書かれていたので、なぜ捕鯨だけはやらなかったのか……面白いと言うかちょっと気になる。もしかしたら、クジラの発する周波数が聾者には感じ取れて……それが何かすごく不快だったみたいなこと、あるんじゃない? ……てAIに言ってみたら「あるかも知れないけど飛躍しすぎかな〜」とのこと。ですよね。AIいわく、捕鯨船は何年もの長い航海に出るし、しかも捕鯨のときにはクジラに対して背を向けて、声の合図で銛を投げるから、聾者にはシンプルに「向いてなかった」んじゃないかって話。だれが上手い話をしろと言った。でもそれも、健聴者の感覚からなる予測でしかないからな。
あと、「社会的言語的孤立」というワードは印象に残った。先天性聾の話とはべつだけど、祖父は難聴がひどくなってから偏屈もひどくなった。職場の患者さんのなかにも、難聴のために会話が減り、会話が減ることで認知機能が低下してしまう、という状況が結構ある。もちろん補聴器とか筆談とかツールはいろいろあるんだけど、そもそも社会は「聞こえる」ひとのためにできてるんだよなって。まあ、聞こえるひとが多いからそれは当然なんだけど、「聞こえる」ということで具体的に私が何を得ているのか、「聞こえない」ということで何がなくなるのか(または何かべつのものを得るのか)ということって、意識したことなかったな〜……と思った。
これは本に書いてあったことじゃないけど、聾の赤ちゃんも最初は声を出すけれど、じぶんの声が聞こえないことで、だんだん喋らなくなるらしい。でも、そこに手話環境があると、手で「喃語」をするんだって。つまり「周りの声を聞いて喋る練習をする」んじゃなくて、「周りの動きを見て自己表現の練習をする」という。すごい!




