
ピエ
@pie_202
2026年7月12日
あの重い足音のにおい
イブラヒーム・サミュエル
読み終わった
シリアの作家イブラヒーム・サミュエルによる短編集。各短編は独立しているが、どれも1980年代後半、アサド独裁下のダマスカスを舞台としている。
主人公は、前半は政治犯とされた人やその家族が多いが、後半は小学校の代用教員や、子沢山の労働者なども語り手となる。
生活の苦しさや政治的な抑圧を直接描くのではなく、それに対する人々の反応としての生活の一場面が主に描写される。特に、表題作「あの重い足音のにおい」や「レイヤ」に感じるじっとりした圧力は、読んでいて息苦しくなるほどだった。
原文では韻を踏んだ言い回しがちょくちょく使われているようで、訳注が適宜ついている。私はアラビア語が全く分からないので、付されたカタカナから想像するしかないが、円を描くような美しい響きが思い浮かんだ。
慣用句は日本語に訳されているが、原文ではどのような表現なのかが訳注に書いてあり(ジンに取り憑かれる→頭がおかしくなる等)、慣習や文化が透けて見え面白い。
訳者の石垣聡子と岡崎弘樹は、サミュエル自身に師事したとのこと。サミュエルとの思い出を語る石垣によるあとがきを読み、訳や注の丁寧さに愛情を感じた理由がよく分かった。
