あの重い足音のにおい
4件の記録
ピエ@pie_2022026年7月12日読み終わったシリアの作家イブラヒーム・サミュエルによる短編集。各短編は独立しているが、どれも1980年代後半、アサド独裁下のダマスカスを舞台としている。 主人公は、前半は政治犯とされた人やその家族が多いが、後半は小学校の代用教員や、子沢山の労働者なども語り手となる。 生活の苦しさや政治的な抑圧を直接描くのではなく、それに対する人々の反応としての生活の一場面が主に描写される。特に、表題作「あの重い足音のにおい」や「レイヤ」に感じるじっとりした圧力は、読んでいて息苦しくなるほどだった。 原文では韻を踏んだ言い回しがちょくちょく使われているようで、訳注が適宜ついている。私はアラビア語が全く分からないので、付されたカタカナから想像するしかないが、円を描くような美しい響きが思い浮かんだ。 慣用句は日本語に訳されているが、原文ではどのような表現なのかが訳注に書いてあり(ジンに取り憑かれる→頭がおかしくなる等)、慣習や文化が透けて見え面白い。 訳者の石垣聡子と岡崎弘樹は、サミュエル自身に師事したとのこと。サミュエルとの思い出を語る石垣によるあとがきを読み、訳や注の丁寧さに愛情を感じた理由がよく分かった。


