
みーる
@Lt0616pv
2026年7月11日
ファイア・ドーム(下)
辻村深月
買った
読み終わった
読書ペースがかなり遅く読み終わるまでに3週間ほどかかってしまった下巻。
全体的に下巻は静かに読者に訴えかけるようなそんな印象を受けた。展開的に派手な場面は序盤の巽と子供たちの場面くらいのもので、その後は透真のパートを中心に据え、事件後の影響と未来について語られている。
光太郎を攫った犯人は本間先生だった。どこか怪しい雰囲気は上巻からあったものの直接的に関わっていたのには驚いた。ましてや実行犯。噂に踊らされ、光太郎を攫う選択をしてしまった本間先生だが、悪人という印象は全く受けず、むしろ「晋也くんを忘れない会」を続けるなど生徒も想いのいい先生である。本間先生視点のパートは胸が苦しく、特に晋也くんにとっては辛い家庭状況と親の意向が本間先生にとってはもどかしかったのだろう。「本間先生お節介だな」と思っていたが、独白パートを読むと本間先生自身は悪くないのではないかと思えてくる。もちろん、何も関係ない光太郎を目の敵にするのはいただけないが、魔が差したとあるように根は本当にいい先生なのだろう。
下巻は透真パートが多く、久我の息子と忠治が対面する場面は非常に丁寧に描かれていた。自分の娘を殺した人の息子と向き合う忠治と好美は何を思ったのだろうか。息子たちは悪くないと思いながらもぶつけようのない怒りを感じている。同時に久我の息子2人も父親によって呪いをかけられた人物。忠治に会って話をするまでにどれほどの葛藤があったのか。仮に自分が同じ立場になったとしてもきっと向き合う選択はできない。このパートに出てくる人物たちの胆力には驚かされた。
本作のテーマは悪意のない悪意、つまり噂話の恐ろしさだったように思う。美冬や本間、忠治は直接的に噂話に身を削られるような思いをした。忠治の時代の新聞や町の噂話から現代のネットによる噂話。この先、デジタル化された世界では噂が噂である時間はすぐに過ぎ去り「ほんとうの話」として人々の手元に収まる。だめだとわかっていても、あくまで噂話だからと軽々しく話してしまう。そう話されると真実な気がしてきて、また誰かに話してしまう。やはりこの先も人間である以上そのサイクルは続くのだろうな。
1つ残念なのが、書店で展開されているポップがあまりにもミステリー小説として推しすぎている。ミステリーとして読むと本間先生が犯人だったくらいしか驚きはないし、予想できる範囲。わかりやすい謳い文句なのだろうが、ミステリーだと思って手に取った人からしたらあまりに重いヒューマンドラマやないかいと突っ込まれるだろう。噂話を中心に巻き起こる登場人物それぞれの葛藤や向き合い方を楽しめるならば本作は良作であろう。
