
和月
@wanotsuki
2026年7月12日

熟柿 (角川書店単行本)
佐藤正午
読み終わった
人の弱さについて考えさせられる作品。
人類が皆強かったら優しさは存在しないと思う。完全に独りでは生きていけない弱い生物だからこそ、酷く残酷になれるし、誰かに優しくなれる。その両側面を丁寧な筆致で描いている。
序盤、主人公は同世代の女性で、彼女の状況に自分を重ね合わせながら読んだ。
私だったらあの時、どうしただろう。
同じ選択をしてしまったのではないか。
それが間違っていると頭の片隅で理解していたとして、動揺し混乱する感情を鎮めて「見なかったフリをすることはできない」と判断することはできるだろうか?勿論、そうすることが正義で、常識で、適切だ。けれど、私なら絶対正しく行動すると言い切れるほどの自信は無い。
本作には弱さを抱える様々な人間が登場する。
その弱さが他者を傷つけ、自分自身をも傷つける姿がまざまざと描かれる。読んでいてどうしようもなく苦しくなる場面もあり、時折本を閉じて主人公の境遇に思いを馳せた。大阪の話が特に辛い。でも、苦しみと同時にやってくる優しさや希望は確かに存在する。どれだけ絶望したとしても、大抵の場合明日は何食わぬ顔をしてやってくる。
闇と光が交錯する世界で、ひとりの女性が過ごした数十年。不幸のどん底と断じることも出来そうな始まりだが、読み終えた時に小さな光を見出せる物語。作中の最後の地で、かおりさんの世界に2人の登場人物が増えたことがとても嬉しい。彼女の人生にはまだ先があり、出会いと別れの連鎖は続くだろう。時間軸の重なりと共にピリオドを打つ著者の構成力が個人的にはとても好き。
きっと今も、日本のどこかで彼女達は暮らしている。そんな気がする。
今の時点で本屋大賞ノミネート作品のうち8作を読み終えたけど、現状一二を争うくらい、読めてよかったと思える作品でした。

