むこうやま "正欲" 2026年7月13日

正欲
正欲
朝井リョウ
序盤は「多様性」という言葉が小説のためのおもちゃにされているような気がしたのと、あと、登場人物の物言いが、読解力のない差別者にとって都合が良すぎるというか、この作品が彼らの言い分を補強してしまうんじゃないかという危惧があり、読み進めるのに非常に抵抗感があった。 しかし、夏月の〈たった一つのことを隠しているだけなのに、その一点が人生のすべてと繋がっているから、誰とも会話ができなくなる。〉という文章が、なかなかセクシュアリティの本質を突いた言語化で、すごい作家だなーと思ったあたり(当事者の言葉を読んだりしたのだろうか)から、集中して読めるようになった。 終盤の八重子の諸橋の会話がよかった。「お前らが好きな多様性って、使えばそれっぽくなる魔法の言葉じゃねえんだよ」「自分にはわからない、想像もできないようなことがこの世界にはいっぱいある。そう思い知らされる言葉のはずだろ」。「ただ、人とは違うものを抱えながら生きていくってことについては、きっともっと話し合えることがあるよ」。 解説を東畑さんに頼んだのはなかなか秀逸だと思った。「新たな「正しさ」が新たな「正しくなさ」を作り出す構造を明るみにだす」作品だったのだと思った。よい社会批評のような作品である。
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