
霧
@yoruto
2026年7月13日
雪の練習生
多和田葉子
読み終わった
借りてきた
あらすじ
腰を痛め、サーカスの花形から事務職に転身し、やがて自伝を書き始めた「わたし」。どうしても誰かに見せたくなり、文芸誌編集長のオットセイに読ませるが……。サーカスで女曲芸師ウルズラと伝説の芸を成し遂げた娘の「トスカ」、その息子で動物園の人気者となった「クヌート」へと受け継がれる、生の哀しみときらめき。ホッキョクグマ三代の物語をユーモラスに描く、野間文芸賞受賞作。
本文p126より、抜粋。
その時、目の前にあるトスカの瞳が黒い炎になってゆらめき始め、あたりがまぶしいくらい明るくなって、その明るさの中で天井と壁を区切る線が消えていった。トスカのことは少しも怖くなかったけれど、まわりの雰囲気が怖かった。わたしは足を踏み込んではいけない地帯に来てしまっていたのを感じていた。ここでは諸言語の文法が闇に包まれて色彩を失い、溶けあい、凍りついて海に浮かんでいる。「話しをしましょう。」一枚の氷の板の上にトスカといっしょに乗って海に浮かんでいるというだけで、トスカの言っていることが全部分かる。隣にも似たような氷の板が浮いていて、イヌイットと雪兎が話をしている。



