ふまそん "罪と罰(3)" 2026年7月16日

ふまそん
ふまそん
@fumason
2026年7月16日
罪と罰(3)
罪と罰(3)
フョードル・ミハイロヴィチ・ドストエフス,
亀山郁夫
⭐︎⭐︎⭐︎ “それ、それ、胸くそ悪いってやつですよ! あなたは人が信じられなくなった。だから、わたしが、荒っぽいお世辞でごまかしているみたいにお考えなんです。でも、ラスコーリニコフさん、あなたはどれだけ生きてこられたっていうんです? どれぐらい物事を理解してらっしゃるっていうんです? たしかに理屈は考えだしました、でもすぐに恥ずかしくなった。それがみごとに失敗し、なんとも凡庸な結果に終わったからです! たしかにみじめな結果に終わりました、それは本当です。といっても、どうにも救いがたい卑怯者っていうわけじゃない。ぜったいにそんな卑怯者じゃない! いつまでもぐずぐず自分をごまかせず、一気にどんづまりまで行きついてしまった。あなたという人を、わたしがどう見ていると思います? 腸えぐりとられようが、毅然として立ち、にこやかに笑みを浮かべて迫害者どもを見返す、そんなふうな人間だと思ってるんですよ。むろん、信仰か、神が見いだせればの話ですがね。ですから、見いだすんですよ。そして、生きることです。あなたはだいたい、とっくの昔に空気を変えなくてはいけなかった。たしかに、苦しむのもいいことです。ですから、苦しむんです。ミコールカが苦しみたいと願っているのは、ひょっとすると正しいことかもしれない。信仰がもてないのはわたしにだってわかりますが――要するに、変にこざかしく考えないことです。あれこれ考えず、人生にすなおに身をまかせることです。心配はいりません。岸までそのまま運んでくれますから、二本足で立た せてくれますから。どういう岸、ですか? いや、それはわたしにもわからない。わたしはただ信じているだけです、あなたはこれからもまだたくさん生きていくべきだって。今のこのわたしの言葉を、丸暗記してきたお説教と思っておられることも知っています。でも、ひょっとして、あとから思いだしてくれるかもしれませんし、いつかお役に立てるかもしれません。だからこそお話ししてるんですよ。あのばあさんを殺しただけですんでよかった。べつの理屈でも考えついていたら、一億倍も醜悪なことをやらかしていたかもしれないんです! これはひょっとして、まだ神に感謝すべきことがあるってことかもしれませんよ。だって、わかりませんよ、神は何か理由があって、あなたを守ってくれているかもしれないでしょう。ですから、あなたも心を大きくもって、あまり恐がらないようにするんです。怖気づいて目の前の大きな義務が果たせないっていうんですか? いや、この段階になってひるむなんて、それこそ卑怯ですよ。あれだけの一歩を踏み出したからには、しっかりなさることです。それこそが 正義なんですから。いまこそ、正義が求めるものを実行なさるんです。信じられないのはわかってますが、なあに、人生が運びだしてくれますとも。そのうちに自分でも好きになります。いまのあなたに必要なのは、空気だけです。空気です、 空気なんです!”
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