
DN/HP
@DN_HP
2025年1月30日

消失の惑星【ほし】
ジュリア・フィリップス,
井上里
かつて読んだ
感想
幼い姉妹が行方不明になった街。連作短編のように語られていく、そこで暮らす12人の“彼女たち”の人生、生活。解決しない問題やこびり付いて剥がすことの出来ない思い悩み、不安、悲しみ。小さな喜び。世界、社会が押し付けてくるままならなさ。傷と痛み。それぞれの小さな物語。それらは少しづつ重なり合い紡がれて、大切に掬い上げられた彼女たちの小さい物語をたしかに残したまま、ひとつの街、土地の、あるいは女性たちの物語として先へと伸びて行く。その先はページが尽きても開かれているけれど、希望の光は見えている。たしかに。
彼女たちの人生、生活、物語に共感し、多分感情移入もしている。もしかしたら身近にも感じていたかもしれない。わたしも彼女たちの側に立っているつもりで読み続けていた。それは読み方として間違ってはいないとは思うのだけれど、同時に彼女たちに向けられる、“彼等”の無関心、利己的な善意や無意識の悪意による加害、社会に今ある”システム“の不寛容なままならなさ。わたしはそちら側に容易に、無意識に立っていることがあるかもしれない。あるのだと思う。そのことは省みるべきだ。
希望を見せてくれるのも、自省を促されるのも、どちらもフィクションが、小説が持っている力だ。そしてここには、文章に構成に物語に、小説を読む喜びや興奮もたしかにあった。素晴らしい小説を読んだ。
構成や扱われるテーマ、その土地にある問題にトミー・オレンジの「ゼアゼア」のことも思い出した。同じように素晴らしかった。

