きくへい "夏帆" 2026年7月16日

夏帆
夏帆
村上春樹
これは、『海辺のカフカ』以来の久々の当たりだ。77歳でなお、こんな小説を書けるのが本当にすごい。リスペクト。 後半部分を読みながら考えていたのは、占いについてだ。占いに自分の意思決定を預けるのは良くないように思えるが、占いを信じている人はどうもそういう意思のない人には見えない。つまり、悪い占いは無視したり、文言を大幅に読み替えたりしながら、占いをどう解釈し、どう行動するかには、多分に本人の意思が入るからなのだろう。なにかを媒介にした方が、物事がうまく進むことはよくある。不思議なことだが、ストレートなことがすべていいわけではない。モチーフやメタファーを通して何かを語った方が、人の心に伝わることがある。著者は、そのことを自己言及的に示しているようにも思えた。こんなにも複雑な世界を喜びたい。 また、本書の技巧のうまさに終始唸った。ほとんどの登場人物は、本当ではないことをしばしば口にする(主人公である夏帆も含めて)。それでも読者にはちゃんと伝わるし、物語は力強くドライブしていく。非常に複雑なことを、とても軽やかに実現している。 テーマも技巧も、朝井リョウ『イン・ザ・メガチャーチ』とシンクロしている。どちらも今という時代を映し出していて、非常に良い。 名作。
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