ゆい "苦海浄土" 2026年7月18日

ゆい
ゆい
@no1sin
2026年7月18日
苦海浄土
苦海浄土
中村桂子,
加藤登紀子,
池澤夏樹,
石牟礼道子,
赤坂真理,
鎌田慧
>わたしどものように運搬船を廻すものたちは、漁師方と違うて、職人ちゅうとでございます。舟人といえば陸に揚らずに家も持たず、空一生を暮らす者どもじゃ、うたせ流れのような者共じゃと、見差別していう衆もおんなはりますけれども、舟の上におりますと、陸と違うところは、なんでもかんでも、うつくしゅうして済んでしまいます。鍋もいっちょ、釜もいっちょ、くどもいっちょ。飾り立ててひとに見せるような台所じゃなし、茶碗皿も余分にや置きません。米味噌も余分に欲出して置く必要はございません。ゴミがいっちょもたまりませんし、子どもが二人ぐらいまでは、おなごには舟の上がいちばん極楽でございます。薪をいくらぼんぼん燃やしましても、くどは厚うに塗りあげておりますけん、舟が燃ゆるということはありません。天井もくすぼらず、煙は天さねむけて登るばっかり。気の晴れわたりますことがなあ、どこどこまでも。 子どもが三人四人になりまして、這いまわったり取り結んだりする程になりますと、甲斐性があれば、太か船を買い替えるか、揚がって家を持つかせねば、狭うなって、どうにもこうにもなりませんけれども。(P.697)
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